【実施報告】第1回支援者支援研究会

令和7年2月16日(日曜日)に第1回支援者支援研究会を開催しました。研究会の内容について、以下のとおりご報告します。
コドケンは、今後とも、支援者支援コーディネーター養成講座や本研究会の企画・実施を通じて、児童相談所や児童養護施設等の現場が抱える課題解決のために取り組んでまいります。

実施概要

今回、児童相談所や児童養護施設等の職員などを中心に57名の方々が参加され、「支援者支援」に取り組む児童養護施設の職員をゲストにお招きして、様々な取組や課題について発表がありました。参加者の方々からは、現場に身を置く方々がまさに今直面している課題・テーマであるからこそ、「支援者支援が当たり前になってほしい」「率直な感想に親近感が湧いた」「自分だけじゃない」「私も一員になりたい」などと多くの共感と学びが得られたというコメントがたくさん寄せられました。

基調講演「支援者支援学の構築を目指して」

支援者支援コーディネーター養成講座講師
日本社会事業大学名誉教授
藤岡孝志先生

 冒頭では、長年にわたって、支援者支援に取り組んできたこれまでの歩みに想いをはせながら、記念すべき第1回支援者支援研究会が開催されたことに対して、感無量の想いと関係者への感謝の気持ちを語られました。

 支援者支援の必要性という観点では、現状、児童相談所や児童養護施設等で働く職員の「安心・安全」が浸蝕されていることや人材確保・定着が困難となっている課題にも言及しつつ、支援者支援コーディネーターの存在がいかに重要であるかについて提言されました。

 また、支援者支援コーディネーター養成講座で習得を目指すことになる『愛着の器支援』『共感疲労・共感満足・支援者支援自己チェック支援』『レジデンシャル・マップ支援』『人生脚本と養育観支援』といった4つの基本技能について簡単に紹介をされました。

 最後に、支援者支援のさらなる展開として、学問的な成果を社会に還元することなどを目的とした「支援者支援学研究会」の発足に向けて準備中であることに触れられ、実践と学問の両輪でもって「支援者支援学」の発展を目指したいと抱負を述べられました。

支援者支援実践報告

児童養護施設希望の家
谷沢健人さん・齋藤倫奈さん

 希望の家では「お茶会などの職員交流の場の提供」「メンター制度(通称:おたすけ隊)」「複数のホームをまたいでホーム運営に関わる養育チーフの導入」など様々な職員を支援する取組をしているとのことでした。しかし、メンタル不調などによる休職者・退職者が発生し、さらに重層的に職員を支援する必要性を感じていた中で、支援者支援コーディネーター養成講座のことを知り、管理職3名と養育チーフ5名の合計8名が参加された経緯について報告がありました。

 また、現在、2025年度の支援者支援導入を見据えて、発表者のお二人が支援者支援コーディネーターを兼任し、職員面談、グループ巡回、モニタリングシステムの実施等に向けて準備を進めているとのことでした。

 最後には、職員が安心して働ける環境づくりや職員同士が語れる場の定着などを通じて、職員のメンタルヘルスの向上とともに、養育の質の向上といった期待について述べられました。しかし、自分たちで務まるのかどうかや職員の期待にどこまでこたえられるかなどの不安も語ってくださいました。支援者支援コーディネーターを支援する必要性が示唆される発表となりました。

対談・インタビュー

[ご出演]
児童養護施設希望の家(東京都葛飾区)
施設長 佐藤孝平さん
児童養護施設愛泉寮(埼玉県加須市)
副施設長 木村康平さん
児童養護施設 子供の家(東京都清瀬市)
副施設長 能村 愛さん

[インタビュアー]
日本社会事業大学社会福祉学部福祉援助学科准教授
宇野耕司先生

1.職場の中に「語れる場」を用意しておくことの重要性

 木村さんから、朝の打ち合わせを情報共有の場から語りの場へと転換させたという取組が紹介されました。特に、語る場に参加していたにもかかわらず退職が決まるまで本音を語れなかった職員がいたというエピソードを交えながら、日常の中に語れる場を仕組化することと同時に、上手く機能させるための組織風土づくりの重要性が強調されました。
 能村さんからも、機会の確保ばかりでなく、職員が安心して発言できる環境づくりも重要ではないかという点についても補足されました。

2.支援者支援コーディネーターの疲弊への懸念

 佐藤さんからは、支援者支援実践報告の発表を受けて、あらためて組織の中に支援者支援コーディネーターを支援する役割や機能を持っておくことの重要性を指摘されました。
 木村さんも、コーディネーターが職員の気持ちに過度に寄り添うことで、コーディネーター自身が疲弊してしまう危険性が懸念されるため、適度な距離感を保った関わり方が必要であり、それがコーディネーターに求められる専門性の一つではないかといった意見をされました。

3.語らない自由を保障し、その気持ちを認めていく

 能村さんによれば、「人生脚本と養育観」を実際に体験した結果、他の受講者との間に親近感が湧いたり、子どもたちに関わるイメージができたなどの感想が報告されました。また、職員の生い立ちや背景にも目を向けていくことへの有用性や可能性に言及されました。
 一方で、語らないことを選択される職員もおり、そこを尊重しながら対応することも高い専門性が必要になるのではないかとの意見がありました。

4.「必要な揺らぎ」を仲間とともに乗り越える

 能村さんは、養成講座を学ばなければただの残業の一幕にしか過ぎなかったと振り返りながら、事務所のガラスが割られたときに、職員と共にガラス業者への連絡や見積もりをお願いするなどした時のエピソードを紹介されました。関わる機会が少なかった職員と二人でこの場面を乗り越えたことで、関係構築の機会となったと言及されました。
 宇野先生は、この場面を「危機場面」として捉え、職員が責められるのではなく、共に乗り越える経験として重要視されました。佐藤さんも自身が養成講座の中で「必要な揺らぎ」という考え方について学んだことを紹介しながら、このような経験を1人で抱え込むのではなく、仲間と共に乗り越えることの重要性に気づかされたと語られていました。

実施報告書のダウンロード(無料)はこちらから

この研究会は、児童相談所等の子ども家庭支援のための機関や児童養護施設等の子どもの入所施設の職員向けの専門的な講座です。「支援者支援コーディネーター養成講座」を受講された団体や職員の方々の学びや実践内容を共有し、支援者支援学の発展に寄与することを目的としています。また、それと同時に、養成講座を受講されていない関係機関の方々にも広く公開する形で実施しました。

イベントの内容や様子について、どなた様でもお手にとっていただけるよう実施報告書にまとめました。所属団体や支援者支援に関心を寄せる知人の方々への紹介や共有といった用途にぜひご利用ください。